プロとしての演奏と子育てとを両立させて 戸田弥生さん /ヴァイオリニスト

戸田弥生・写真①miniYayoi_toda_(C)Kinoshita_Akira12 (C)Kinoshita_Akira

ヨーロッパの街のような 国立が好き

戸田弥生国立市の新住民となって、1年半ほどになる。 「子どもたちの学校のためもありますが、ヨーロッパのような国立の街が以前から気に入っておりまして、とうとう引っ越してきました」 現在、10歳の長男と、7歳の長女の子育て中の母親である戸田弥生さん、じつは世界的に著名なヴァイオリニストとして、内外の演奏活動をこなすプロの音楽家である。 4歳からヴァイオリンを始め、1985年には第54回日本音楽コンクールで第1位。桐朋学園大学音楽学部を首席で卒業し、1992年アムステルダムのスウェーリンク音楽院に留学したかと思うと、翌年には、世界三大コンクールのひとつ、「エリーザベト王妃国際音楽コンクール」に優勝。それは日本人としては史上2人目、その後に続く日本人もまだいないという快挙だった。

江藤先生の厳しいレッスンに耐えて

戸田弥生「両親はクラシック好きでしたが、最初は軽い気持ちでヴァイオリンを習い始めて。でも子ども心にも、コンクールで認められてうれしかったことは鮮明に覚えていますね。そして桐朋で江藤俊哉先生に出会って、プロとして生きていく覚悟ができました」 のちに桐朋学園大学学長もつとめた故・江藤俊哉さんは、日本を代表するヴァイオリニスト。だが戸田さんに対しては、そのレッスンは半端でなく大変厳しいものだった。 「先生には、15、6年お習いしましたが、本当に、ただの一度も、一度もほめられたことがなかったんです。毎回45分のレッスンに向かう途中、胃がきりきりと痛くなるほどつらかった」 その厳しい練習に耐え抜いたあとで、オランダの新たな、クレバース先生のもとで1年の準備の末に臨んだのが、先の「エリーザベト王妃国際音楽コンクール」。 そして、本選の最後の審査委員として参加した江藤先生は、見事優勝した戸田さんの演奏を、そのときついに初めてほめてくれたのだった。

演奏旅行で世界を飛び回る日々

戸田弥生コンクールで優勝した戸田さんの生活は一変する。 海外からの招へいも多く、「まるで飛行機の中に住んでいるのではないか」と思えてくるほど、各国を飛び回る日々が数年間も続いた。 「でもその間、素晴らしい演奏家の方々と共演する機会に恵まれて、音楽のことも人間的なことも、多くを学ぶことができました。それは今に続く私の宝ものです」 輝かしい都会のニューヨークに数年住み、キャリアを積んでいましたが、やはり最初の留学の地のアムステルダムがやっぱり好きで10年ほど暮らし、その後、結婚。そして子どもを育てるために、日本に帰ってきた。 「子育てには誰かの支援がなければ、プロとして演奏を続けられなかったからです。しばらくは福井の実家におりまして、母や叔母など家族みんなに助けてもらいました。一人目のときは、長男をおんぶしてヴァイオリンもって、まるで家出してきたみたいな恰好で、演奏旅行に連れて行ったんですよ」 仕事と母を両立させようと必死だったけれど、今から思えば長男も大変だったでしょうね、と振り返る。今ではだんだん手がかからなくなった子育てであるが、「家で怒ってばっかりいる人と思われないように」、東京での演奏会があるときは、プロのヴァイオリニストとしての演奏を聴きにきてもらっているのだという。

国立での初めての演奏会は兼松講堂

兼松講堂この11月30日(土)、一橋大学兼松講堂で、国立での初の演奏会が開かれる。 コンサートの指揮をつとめる沼尻竜典さんは、桐朋学園時代からの信頼する仲間。オーケストラは世界を目指す桐朋学園大学の精鋭たち。 「ヴァイオリンは、身体と密接していて、そのまま人の声というか体温が、伝わる楽器だと思います。こちらの状態が悪いと音がならない、響いてくれない楽器です。だから体調管理にはとても気を使います。とにかく食べる、寝る。そして無理なダイエットはしない(笑)。ヴァイオリニストは美しい仕事と思われますが、じつは肉体労働ですからね」 母としてプロの演奏家として、ますます充実している戸田弥生さん。その素晴らしい演奏を、この秋、どうぞお楽しみに!
■戸田弥生(とだやよい) 1993年エリーザベト王妃国際音楽コンクール優勝以来、日本を代表するヴァイオリニストの一人として、圧倒的な集中力による情熱的な演奏で聴く者を魅了している。 江藤俊哉、ヘルマン・クレバース、シャルル・アンドレ・リナール、ドロシー・ディレイの各氏ほかに師事。日本のオーケストラはもとより、ニューヨーク・チェンバー・オーケストラ、モスクワ・フィルハーモニーなど各国の交響楽団、また、小澤征爾、ユー リー・シモノフなど数多くの演奏家と共演している。1999年にカーネギー・リサイタル・ホールで室内楽を中心としたリサイタル「Yayoi and friends」を開催。国内外のコンクール審査員としても招かれ、2005年にはエリーザベト王妃国際音楽コンクールのヴァイオリン部門審査員を務めた。 CD: 20世紀無伴奏ヴァイオリン作品集最新盤「20世紀 無伴奏ヴァイオリン作品集」
イザイ : 無伴奏ヴァイオリン・ソナタ「イザイ無伴奏ヴァイオリン・ソナタ全曲」
子供の夢珠玉の小品集「子供の夢」
オフィシャルホームページ http://yayoi-toda.com/
第24回 くにたち兼松講堂 音楽の森コンサート ベートーヴェン生誕250年(2020)プロジェクト・シリーズ Vol.3 「若き巨匠たちと桐朋学園の精鋭たち」 『ベートーヴェン/交響曲第7番・ヴァイオリン協奏曲』 通し番号1 ○日 時  2013年11月30日(土)午後2時開演(1時30分開場) ○会 場  一橋大学兼松講堂(JR国立駅南口徒歩7分) ○プログラム 【曲目】 ・祝賀メヌエット WoO.3 ・ヴァイオリン協奏曲 二長調 Op.61 ・交響曲第7番 イ長調 Op.92 【指揮】 沼尻 竜典 【独奏】 戸田 弥生 【管弦楽】桐朋学園オーケストラ 【監修・ナビゲーター】西原 稔(桐朋学園大学教授) 【前売券】(当日券は各500円増し) S席  4,000円(指定) A席  3,000円(自由) 学生券1,500円(自由席) ◆問い合わせ・予約 コンセール・プルミエ 電話:042-662-6203(月~金10:00~18:00) ◆チケット(国立市内の販売店) ・一橋大生協(西ショップ) ・「白十字」南口店 ・リストランテ国立文流 ・くにたち市民芸術小ホール ・「とれたの」 *東京文化会館チケットサービス  電話:03-5685-0650 *CNプレイガイド        電話:0570-08-9990 主催:ボランティアチーム如水コンサート企画 詳細は http://kunitachi.town-info.com/e?2045
取材・執筆:田中えり子