手打ち蕎麦 かな井

手打ち蕎麦かな井は国立駅南口から歩いて約7分、旭通りの中ほどにあります。

2001年8月の開業後、ほどなくして「おいしいお蕎麦屋さんができた」の評判が口コミで広がっていきました。以来、多くの常連さんに支えられる市内でも指折りの人気店のひとつ。

打ったお蕎麦が終わった時点で「売り切れ御免」でやむなくお引き取り願うお客さまが多いからといって、席数を増やすでもなく2号店を出すでもなく、ひたすら地道に今日まで。

「それはこれから先も変わらないです」と店主の金井博美さん。

それは、「一から十まで自分ひとりでできる範囲で、納得できる蕎麦を提供する」と決めているから。開業以来、頑ななまでに変わらない姿勢です。

12、3席のこじんまりしたお店は、「女性がひとりでも気軽に入れて食事していただける。一献傾けられるようなら、さらにいいかな」と金井さん。

そんな安心感・くつろぎ感なら、誰にとっても居心地のいい空間、雰囲気ですね。曜日や時間帯によりひとり客あり、ファミリー客あり、学生客あり…と、さまざまな表情を見せるかな井です。

蕎麦は「挽きたて打ちたて茹でたてが一番」と言いますね。金井さんも、粉の鮮度が重要なのは百も承知。けれども、あえて自家製粉はしていません。

それは「挽きたての粉は、玄蕎麦、挽いた粉の管理がきちんとできていないと、ダメなんですよ。保管のための温度、湿度、遮光性などなど、管理が結構大変でね。相当なスペースも必要になっちゃう」

あえてそこで無理をせず、信頼できる粉の仕入れ先を見つけたのだそうです。

「玄蕎麦生産者も製粉者も顔がわかっているところから仕入れています。粉を真空パックしたものだから、劣化も防げるし。5kg袋を開封したら2日で使い切る。うちみたいな規模なら、その方がいいと確信したのでね」。

主に茨城県産の蕎麦粉を用いて、二八、十割など試行錯誤した結果は、九一の割合。きりっとした喉ごしで力強さも損なわない割合だと言います。

これを朝と午後の2回、手打ちしています。

蕎麦に欠かせないつゆももちろん「気を遣うところです」。昆布と鰹節のだしをベースとしています。こちらも試行錯誤を繰り返していて、使う蕎麦粉との相性、太めの麺には甘め、細麺には辛めにしてシャープな味わいにと、「今なおあれこれチャレンジ中」だそうです。

あくなき向上心は、「日々勉強です」の言葉に表れています。

なるほど、せいろをいただくと角の立った細めの麺が、心地よく喉を通っていきます。

蕎麦打ちのおもしろさは、日々変化があるところ。

「大切なのは、粉と語り合うこと。粉は気温や湿度によっても状態が違うし、だいたいが蕎麦栽培・生産の時点で全く同じものはできないでしょ」

「あきないとはよく言ったものでね。商いは変化があって飽きないから続けられるかな。お客さまも日々違いますしね」

新しい人やものとの出会いが、金井さんの活力の源なのかもしれません。

自らもお酒が好きと言う金井さん。日本酒の品揃えも楽しみですよ。

「季節の一品を楽しみながらゆっくり一献傾けていただいて、締めに蕎麦を味わってもらえたら、と思いますね」

金井さんは、驚いたことに元は役者さんだったそうです。大学時代に芝居に出合い、卒業後一度はサラリーマンになるものの、芝居への夢をあきらめきれず、25歳で劇団に入団。日本の各地で舞台に立ち続けます。

「とはいえ、その先の生活のことを考えると芝居だけではね…」と一念発起したのが20年前のこと。

「さて、何をしようかと考えたものの組織に入って働く性格ではないし。まあ、芝居をやっていたぐらいでものづくりは好きだから。職人的なことがなりわいになれば、と思ったんですよね」

そして、奥さまの助言もあって、蕎麦職人を目指すことに。

まずは深大寺にある蕎麦店に入って、ゼロから学びます。

「何も知らなかったですからね、本当に勉強になりましたよ。ただね、当たり前のことなんですけど、雇ってもらってすぐに蕎麦打ちをさせてもらえるはずもなくて。待ちきれな

いというか…」で1年ほどで退職。

その後見つけた一茶庵系の「プロ養成」講座を受講します。それが2001年の3月から4月にかけての1ヵ月間。

自店のオープンが同年8月といいますから、猛ダッシュですね。

国立を選んだのは「たまたま」。物件を探しに訪れているうちに、緑豊かな土地柄が気に入ってきたのだそうですよ。

「蕎麦の味も料理もお酒も、芝居をやっていたときにあちこちの土地のものを食べてきた経験も役立っているかな」と懐かしそうに振り返ります。

自分ひとりの手でできる範囲内で、自身も、そしてお客さまも納得のいく蕎麦や料理を提供したいと熱く語る金井さん。

そう言いながらも、そもそもの蕎麦屋開業の選択にしろメニュー開発にしろ、しばしば出てくる「妻の助言があって」の言葉。間違いなく、接客を担当している奥さまとの二人三脚で歩んできたのでしょう。

そんなかな井は、本日も元気に営業中。

 

基本情報

店舗所在地
国立市東2-3-4 ブランズ国立104
営業時間
11:30~14:30(L.O.)
17:30~20:30(L.O.)
休業日
月・火定休(祝日の場合は営業)
TEL
042-577-8141
ウェブサイト
https://sobakanai.amebaownd.com/