かつて谷保には、天台宗梅香山安楽寺というお寺がありました。創建は1014年(長和3年)といわれ、谷保天満宮の別当寺※として神社を管理し、祭祀を執り行ったようです。ところが、明治時代にはいると神仏分離政策がとられ、さらに火災によって焼失したのち、安楽寺はそのまま廃寺になってしまいました。 今日では、その安楽寺の子院六坊のひとつであった滝本坊が、「滝の院」として市内に残っています。 (※江戸時代以前の神仏習合時代に神社に付属して置かれた寺。当時は仏が神より上位に置かれて社務の実権は僧侶にあった)
幸いなことに、旧安楽寺にあった貴重な仏像や仏具などの什物は、そのまま滝の院に移されたため散逸しませんでした。また滝の院には住職がいないので、現在ではそれらの什宝の多くは谷保天満宮の宝物殿に預けられています。代表的な仏像は以下、いずれも市の登録有形文化財です(一般には非公開です)。国立市ホームページ・国立市登録有形文化財・歴史資料ページに写真があります。
- 【血文阿弥陀如来座像】津戸三郎為朝ゆかりの伝承があり、旧安楽寺の本尊と伝えられます。
胸の中央で智拳印を結ぶ金剛界主尊の大日如来像。1840年(天保11年)四軒在家の原田辰五郎によって寄進されたもの。
- 【金剛界大日如来像】
- 【十一面観音立像】 頭部に頂上仏面と十の菩薩面をつけた十一面観音像。高さ60センチ。
かつては墓守が居住して墓参者の世話などをしていましたが、現在の滝の院は、滝の院墓地管理組合によって管理されており、宗派や菩提寺の違いを超えた共同墓地となっています。墓地内で公開されている、そのほかの市登録有形文化財は以下のようなものです。
- 【滝の院庚申塔】 造立年代は 1763年 (宝暦13年)、江戸時代の下谷保村の庚申信仰を物語る貴重な地域資料です。
- 【融通念仏盟約塔】 1783年 (天明3年)に造立された角柱型塔。融通念仏は、大勢の人が念仏を唱和して相互に功徳を融通し合い、大きな功徳を得ようとする信仰形態です。
- 【滝の院不動明王】 塔の正面に頂蓮をおく索髪の不動明王像。右手に宝剣を持ち、左手に絹索をとる像容と、迦楼羅焔光が彫られています。右側面には文久二(1862)年の銘。近世の不動明王の石造物は、市内には2基のみで貴重なものです。
- 【馬頭観音塔その1、その2】 観世音菩薩の変化像の一つ。馬頭観音は忿怒相で頭上に馬頭を敷き、胸前で明王馬口印を結ぶのが特徴です。1789年(寛政元年)、角柱型は1862年(文久二年)建立。
- 【滝の院石橋供養塔】 石橋を新造した際に堅牢で安全であることを祈念して供養する石塔。この石橋供養塔は1761年 (宝暦11年)に念仏講中により建立されたもので、宝珠と錫杖をもつ丸彫りの地蔵菩薩坐像です。甲州街道石橋(滝の院入口のすぐ西)に係る供養塔ではないかと言われています。
【取材・執筆】 田中えり子 【写真】 くにたち総合ポータルサイト事業協議会 【参考】 『あおぞら』(国立の自然と文化を守る会発行)、国立市ホームページ・国立市登録有形文化財・歴史資料ページ
JR南武線谷保駅から徒歩2分