谷保天満宮は、農耕の氏神さまをもとに、道真ゆかりの古くからの伝承もあって民の信仰を広く集めてきました。現存する本殿は、1749年(寛延2年)に建立された国立市内でも最も古い建築物です。甲州街道からの鳥居をくぐると、神社には珍しく本殿が参道を下に降りたところにあるため、多くの参拝者から不思議に思われますが、これは江戸時代までは甲州街道が現在の場所ではなく、本殿の南側に通っていたためです。 そして道真公といえば、もちろん梅。都を追われるときに歌った有名な和歌、「東風(こち)吹かば 匂いおこせよ 梅の花 あるじなしとて 春な忘れそ」にちなみ、参道の左側には350本の梅林があり、1月から3月まで、紅梅白梅が楽しめます。 また境内には、江戸名所図会でも紹介されている「常盤の清水」があり、立川段丘から湧き出る豊富な湧水が、弁財天を祭った厳島神社の周囲の池を今もうるおしています。 また谷保天満宮には、国指定重要文化財に指定されている「木造獅子狛犬」鎌倉時代(13世紀後半)、「木造扁額 額文『天満宮』」鎌倉時代(1275年、建治元年)も所蔵されています。
谷保天満宮は、ふだんは静謐な鎮守の杜ですが、年間を通して季節ごとに催事があり、境内はたくさんの人でにぎわいます。1月の初もうでに筆供養、2月の梅祭り、6月はあじさい祭り、9月の例大祭での獅子舞、11月にはおかがら火とうそ替え神事。 さらに最近では、明治41年、国産初のガソリン車によるドライブツアー(自動車の宮様といわれた有栖川宮威仁殿下による「遠乗会」)が日比谷から谷保天満宮を目的地としていたことから、天満宮が交通安全発祥の地としても注目され始めました。 毎年12月には、その遠乗会を記念して、有志によるクラシックカーのパレードも行われています。
【取材・執筆】 田中えり子
【写真】 菊地 茂さん(谷保天満宮 権禰宜)、くにたち総合ポータルサイト事業協議会
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