「いらっしゃい」 マスターの岡本さんは、いかにもベテランのバーテンダーという感じで、一見近寄りがたい凛としたたたずまいですが、眼鏡の奥の目は優しそうです。店内はいかにも老舗のオーセンティックバーのイメージそのもので、柔らかなマリリン・モンローのポスターがいい雰囲気。 「お邪魔します、何をいただこうかな。ねえマスター、おすすめは?」 「うちの名物はモスコミュール、マティーニ、サイドカーなんです」 「ふうん。じゃあモスコミュールをいただこうかな」 「はい」 「あ、これが有名な滝田ゆう画伯デザインのコースターね。かわいい・・・・・・」
「どうぞ」 「ありがとう。へえ、モスコミュールを銅のマグカップに入れてくれるのね」 「本式のモスコミュールはそうやってお出しするんですよ」 「わあ、美味しい」
モスコミュールというのは「モスクワのラバ」という意味なんだそうです。飲みやすいからといって調子に乗って飲んでいると、ラバに蹴飛ばされたように効いてくる、という意味なのかしら。ライムがさっぱりして、何杯でもいけちゃいそうだけど、ラバに蹴飛ばされないようにしなくちゃ。 「それにしても1959年から続いてるなんて素晴らしいわね。長く続ける秘訣があるなら教えて欲しいわ」 「飲食店といいますのは経営者の個性が大事なんです。こうと決めたら頑固にスタイルを保つことが大事なんじゃないでしょうか」 「でも50年以上続けている間には環境もずいぶん変わったんでしょう?」 「そうね。最初はね、立川の米軍の兵隊さんが多かったね。兵隊さんは12時を過ぎると立川では外出禁止になるんですよ。それでずいぶん大勢が国立に流れてきてたんです。当時の国立には兵隊相手のお店がずいぶんありましたね」 「へえ。立川基地が返還されて兵隊さんが来なくなったときは困ったでしょう?」 「このあたりのバーはほとんどがスナックに業態を切り替えました。でもうちは絶対にオーセンティックバーというスタイルにこだわったんです。国立にバーはウチ一軒しかないという時期もありましたね。いまはようやくバーの地位もあがってね。ずっとやってきて良かったですよ」 「このお店の歴史はバーの歴史そのものなのね。でもどうしてバーを始めたの?」 「独立して仕事をしたかったんです。バーを選んだのはたまたまでね。なんでも良かったんですよ。わたしはずっとここで自分の好きなことをやってるだけです。素晴らしいお客さんたちに支えられましてね」
モスコミュールをいただいている間にも、次々に扉が開いてお客さんがやってきます。初対面の客同士がすぐに打ち解けた様子で話を始めるのは、やはりマスターの雰囲気作りのうまさなのかしら。今夜は国立市長もお見えになって、マッカランをオンザロックで召し上がっていかれました。2杯だけ飲んでさらっと引き上げるあたりは素敵な大人という感じね。 ここに集う人はみな国立が好きで、お酒が好きで、マスターが好きなんだわ。敷居の高そうなお店だと思ってらっしゃる方は一度勇気を出して入ってみて。楽しい時間を共有したいという気持ちさえあれば、きっとすぐに受け入れてくれるから。
Bar レッドトップ | |
住所 | 国立市 中 1-9-49 |
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TEL | 042-575-1212 |
定休日 | 日曜日・祝日 |
営業時間 | PM6:00~AM0:00 |
ホームページ | http://kunitachi.shop-info.com/redtop/ |