天政

JR国立駅南口から歩いて3~4分、大学通りと旭通りを結ぶ閑静な小路・東一条通り。個性的なお店が軒を連ねるこの通りの中ほどに、天政はあります。

 

お店の前に立つと、より静けさを感じられるのは、古き良き時代を彷彿とさせる佇まいのためでしょうか。

玄関でひょいと見上げると、立派な篆刻による屋号が掲げられています。これは2代目・安江順一さんのおばあさま・キミさんの書を、地元の小澤孝造さんが彫ってくださったもの。いつもこの篆刻がお客さまをお出迎えしています。

 

店内に入るとまず目を引くのが、溶岩を組み合わせた岩山から流れ落ちる滝。水の音も涼しげです。池には錦鯉も泳いでいます。凝った設えは見どころがいっぱい。

橋を模した欄干の先には、茶室のような小屋根のある和室があります。

 

その和室はテーブル2卓、最大10席。床の黒く見える部分は実はガラス張りで、滝から続く池が床下にあり、ときには鯉の姿も見られます。

 

客席はもう1室、入り口横に洋室があります。こちらもテーブル2卓、最大10席。

和洋室いずれも個室タイプの落ち着いた雰囲気で食事が楽しめます。

 

天政は創業65年。

魚の行商やお惣菜屋さんをしていた先代・政昭さんとルリ子さん夫妻が、この地に店を構えたのが始まり。

当時の一橋大学の体育会系部活やゼミの学生さんのお腹を満たす食堂でもあり、先生方の集まりにもよく利用されてきました。

「今では機会が少なくなりましたが、国立は学校が多いですから、学校関係の宴会なども多くありまして、みなさんの靴でいっぱいになりましたね」と、順一さんの奥さま・三千代さんが、2階の広間への上り口にある何十足も入る下駄箱を見せてくださいました。「下駄箱の奥行きを見ると時代を感じますね。今どきのお若い方の大きな靴は、はみ出してしまいますね」。

また、天ぷらや刺身を提供する料理屋として、地域の方たちの家族イベントや会食の場として欠かせない存在にもなっていきます。

 

天ぷらと刺身のうまさは、創業以来、定評あるところ。先代からの目利きと包丁さばきは、今なお健在。

写真はお昼の「和み膳」2,310円(税込み、2023年7月現在)。

「ランチは25年ぐらい前から始めました。この献立はうちの基本です。季節の厳選素材を使った天ぷら、刺身、自家製甘酢を使った酢の物で、“天政”を味わっていただければ、と思います」。

ランチタイムにはほかに定食もの4種(990円~1430円)、丼もの3種(990円、1210円)があり、多くのお客さまで賑わいます。

丼物の中でも寿司丼のご飯の味が独特。「味を決めたのは母で、普通のご飯に昆布茶、自家製甘酢、母の出身地熊本特産のかぼす汁を、ご注文のつど合わせています」。それはぜひとも味わってみたいもの。

夜のお食事と土曜・日曜は、予約制。コース料理を主体に提供しています。お電話で確認してください。

 

65年もの間には、街の移り変わり、客層やニーズの変化など、さまざまな波が天政にも押し寄せました。乗り越えてきた歴史や、地域の人々、お客さまとの交流が、料理や空間に詰まっています。時代や環境の変容とともに歩む中で、お店のありようにも変化はあるものの、天政として守ってきた味と細やかな気配りがあります。

「赤ちゃん連れでしたら畳のお部屋なら寝かせてあげられるかしら、手が不自由な方にはワンプレートの方が召し上がりやすいかしら。そんなちょっとしたことを喜んでいただけるのもうれしくて、やりがいを感じます」

そんなやさしさとともに味わう食事は、いつだっておいしい。

こちらに嫁いで40年。なぜか創業の頃、いや、それ以前の国立の様子や人々についても詳しい三千代さん。

「母からいろいろな話を聞いてきましたから。おかげで古くからのお客さまとも、あそこにはあれがあったね、あの方は豪快だったねとか、お話を合わせることができるんですよ」と笑います。

「学生時代、ここでお腹いっぱい食べさせてもらったなぁ」「結婚が決まって両家の顔合わせをここの2階でしました」「お食い初めや法事でもお世話になりました」といった思い出話も、よく出るそうです。

お母さま仕込みの語りに、お客さまも思わぬところで盛り上がってしまうかもしれませんね。それも食事の楽しみのひとつに違いありません。

基本情報

店舗所在地
国立市東1-6-8
営業時間
ランチ:12時~14時 
ディナー:要予約
休業日
土曜、日曜は要予約
予約がない場合は、お休みとなります
TEL
042-576-1329
店舗席数
20席
禁煙・喫煙
禁煙