工藝 火水土
国立駅から南に向かって歩いて10分ほど、大学通りと学園通りが交差する少し手前。静かな住宅街に、懐かしい空気をまとい独特の風情を醸す、外観からして気になるお店があります。それが、陶器や和風雑貨を扱う「工藝 火水土」。お店の前にも季節ものや小物が展示されていて、思わず足を止めて見入ってしまいます。
火水土という少し変わった店名は、もともとは陶芸品を扱うことから始まったお店だから。「陶芸は火と水と土を使ってするものでしょ」と話す店主・笹本富子さんが陶芸に凝っていた25年前にオープン。
以来、「いろんなことをやってきたのよ。なんてことのないおばんざいのお店が近くになかったから、そんなものをお昼に作って出したり、お抹茶やコーヒーを出す喫茶コーナーみたいなこともしたわね、お料理も好きでずいぶんやってきたから。好きなこと、こんなお店があったらいいなと思うことをやってきただけ」。
生粋のくにたちっ子、笹本さんが生まれ育ったこの地での商いは、少しずつ形を変えながら、今なお続いています。
小物たちに手招きされるように引き戸を開けると、9坪ほどの店内に茶道具、香道具から骨董品、季節ものや日常雑器、人形、アクセサリー、着物生地を使った細工ものなどがずらりと並びます。
多彩な品揃えは、陶芸のほかに茶道、華道、書道…と、さまざまな「道」を学んできた笹本さんのお眼鏡にかなったものばかり。いずれも師範の腕前ですから、“好きなこと、趣味”という言葉ではくくれない技術と奥深い知識をお持ちです。
「でもね、教えるのは好きじゃないのよ。自分のお楽しみなの」と照れたように笑います。
作家もの、一点ものがほとんどで、お手頃価格のものが多いのもうれしいですね。
「器などは、ぱらぱらと単品ものが多いと思うでしょうけれど、国立は二人暮らしの方が多いの。だから5枚揃えとか6客セットとかでなくてもいいの。色違いや柄違いを使うのもそれはそれで楽しいし、お客さまの好みはいろいろでしょ。気に入ったものを手にしていただいて、お客さまの暮らしに彩りを添えられたらいいですよね」。
働く自分へのご褒美として、ひと月にひとつお気に入りを購入されるお客さまもいらっしゃるとか。ちょっとすてきなお話ですよね。
品物を包むのは、毎朝、書道にいそしむのを日課としている笹本さんが、自身の書を切って作る袋。墨と余白の出方がそれぞれに違って、ひとつとして同じものはない面白いものに仕上がっています。
「筆をとって書いていると、無心になれるのね。心が落ち着く気持ちよさと、ものづくりが好きなのと、ものを無駄にしたくないという思いの表れがこの袋かな」
「無駄にしない」の心は、人形作家を母に持ち、その仕事から出る端切れを利用して、愛らしい袋物や絵葉書や屏風を作り出す作家さんともつながっていきます。
ぜひとも、手に取ってみてくださいね。
樹木豊かな大学通りは、季節の移ろいを感じるのに最適な場所。しばし皆さんの目を楽しませてくれる花びらも紅葉も、風に舞っては吹き溜まります。「四季を感じられることはとても大切なこと。癒されるでしょ。皆さんにも楽しんでいただきたいから、日に何度も通りのお掃除もしていますよ」と笑います。
商品のことはもちろん、さまざまな「道」を通して、また、その先生たちから得た人生観を軽やかに語る笹本さんとの会話はなんとも魅力的。ゆったりとした時が流れるようですよ。
お散歩がてら、気軽に訪ねてみて。
- 店舗所在地
- 国立市東2-25-24
- 営業時間
- 8:00~17:00
- 休業日
- 火曜
- TEL
- 042-571-0902