魚善
ガラスケースに並ぶ魚に、思わず「美しい!」。素人目にも、「いいお魚に違いない」と思わせてくれる姿です。
「朝3時起きで、豊洲まで仕入れに行っています。うちでは海魚を中心に20~30種扱っています」と、二代目店主の菊地英明さん。
あらら? でも、おいしいと聞いていた刺身がありませんけど・・・。
「うちの売りはマグロ。それもサクにしてしまったら1日しかもたない天然のインドマグロ。水っぽくないしドリップも出ないからおいしいんだけれども、扱いが難しい魚で。限られたお寿司屋さんでしか食べられないんじゃないかな。国立ではうちだけだと思いますよ」
天然インドマグロはこの状態で、お店のマイナス60℃の冷凍庫に保管されています。これを必要な分だけ解凍して刺身にしていきます。
「刺身は予約していただければその時刻に合わせて切り出しますけど、普段は夕方3時過ぎにならないと出さないんですよ。夕飯の買いものって、そのくらいからでしょ?朝から刺身を並べていたら、召し上がるころには味が落ちてしまいますからね。一番おいしいタイミングのいい状態で食べてほしいんですよ」
おお、なるほど、そうでしたか。
お客さまが召し上がるであろう時間帯と、刺身用マグロの解凍に要する時間を読み込んでのお仕事でしたか。おいしさをとことん追求した結果なのですね。
後日、夕刻に出直して、ついにインドマグロのお刺身を入手しました。ツマの大根が真っ白のまま。ドリップが出ていないんですね。脂がのっているけれど臭みはなく、おいしいとしか言いようがありません(表現力が乏しくて食レポ失格です)。
16歳から23歳までの7年間は、洋食のコックだったという菊地さん。
「実を言うとね、昔は魚が苦手だったの。スポーツもしてたから、腹が減るじゃない。ごはんはかぶりついて食べたいわけ。魚は骨があるから、ちまちま食べることになるでしょ。それじゃあ、お腹が間に合わない(笑)」
それなのに何故コックをやめて魚屋さんに?
「25年ほど前に結婚の挨拶をするんでこの家に来て、食事どきに出されたのが、当時から魚善イチオシのインドマグロの刺身で。口に入れた瞬間、あまりのうまさにガツンとやられてしまって。いずれは自分で店をやりたかったこともあって、跡を継ぐことになりました」
鮭の解体を見せていただきました。
「最後はピンセット持って、骨を抜きます。子どもたちの魚嫌いの理由がわかりますからね。鮭でもタラでも骨がないからかぶりついても大丈夫(笑)。高齢の方にも骨がない方が安心だしね」
保育園などにも納入しているので、こんな下ごしらえがしてあったら、給食担当者も食事を見守る保育士さんも安心ですね。
市内の保育園で、子どもたちに魚の解体を見せることもある菊地さん。魚は切り身で泳いでいるのではないこと、命をいただくことへの感謝などをやさしく伝えています。
そして店頭では、今日のおすすめやおいしい調理法を伝授してもらえます。魚屋さんとしての目利きと、コックさんだった強みが発揮されますね。
そんな魚善さんがあるのは、矢川メルカード商店街の奥まったところにある生鮮専門店街。鮮魚、精肉、青果物の専門店が長屋風に並んでいます。1970年代前半の同時期に開店して営業を続けている3店は、都営富士見台4丁目アパート(旧・矢川北アパート)とともに歩んできました。
「かつては賑やかだった団地も、住民の高齢化が進んでさびしくなっているけれど、5年後の完成を目指して建て替えが進んでいるし、目の前にある“くにたち未来共創拠点 矢川プラス”が4月にオープンします。新たな人の流れが生まれるのではないかと期待しているし、街の活性化に向けて、商店主も頑張っていますよ」
昭和レトロな雰囲気が重宝されて、ドラマなどのロケ地にもなっているこのエリア。それは店主のみなさんのお客さまに対する変わらないやさしさも込みで、ですね。
懐かしさとやさしさと新しい拠点が織りなす、活気あふれる街の再生が楽しみです。
- 店舗所在地
- 国立市富士見台4-23-7
- 営業時間
- 10時~17時(火曜・土曜:~18時30分)
- 休業日
- 日曜
- TEL
- 042-576-7845