東ブロミート

矢川メルカード商店街の一番奥にある生鮮食品専門の3店。こんなふうに青果、魚、肉の生鮮専門店が隣り合っている例は全国でも数少ないのだとか。同時期に開店して半世紀。その奥に広がる都営富士見台4丁目アパート(旧・矢川北アパート)とともに歩んできました。

 

3店並んでの構えが持つ昭和レトロな雰囲気は、見かけだけではなく、店主さんたちのお客さまへの思いや大切にしているコミュニケーション、ぬくもりのあるふれあいと相まっての人気スポット。ドラマなどのロケ地としても使われています。

 

いちばん団地寄りに位置するのが東ブロミートさん。

店主の宇田津博昭さんは宮崎県出身。18歳のときから、おじにあたる谷保の精肉店(現・小川さん家)でアルバイトをしていました。その間に肉に関する知識や技術を身につけ、1973年3月、現在地で独立開業を果たします。

 

取材に応じてくださっている間も、宇田津さんの手は休むことなく、鮮やかに肉をさばいていきます。ブロック肉をきれいにそうじして部位ごとに切り分けていきます。鶏も、丸のものをさばきます。脂肪や骨も活用すべく分類されていきます。

「うちで扱っているのは牛、豚、鶏だけ。冷凍ものは扱いません。3種類に限っているのは、日々に食べるごくごく普通の肉だから。回転よく販売できて、新鮮でしょ。珍しいものはたまにしか出ないからね」

ハム・ソーセージなどの加工肉は、「味や品質に信頼のおける大多摩ハムさんのみ」。

おいしく食べてほしい一心の選択なのですね。

 

手間暇惜しまずていねいに仕分けられて、店頭に並んだお肉たち。

 

お惣菜は、奥さまの優子さんが担当。「毎日15種類ぐらい作っています。商店街のイベントのときには、焼き鳥を出していますよ」

 

その焼き鳥。注文すると改めて火を通して、ホカホカで手渡されます。絶品です。身は柔らかく、かむと肉のうま味があふれ出ます。醤油ダレのほどよい塩加減と甘みのやさしい味わいです。

一番人気は若どりメンチカツ。博昭さんが脂身を分けていたので、てっきりラードで揚げるのかと思っていたら、「飲食店ならラードはカラっと揚がっていいのだけれど、うちの場合はお持ち帰り。冷めると脂肪が固まってしつこくなるから、サラダオイルで揚げています」。なるほど、それで胃もたれしないんですね。

 

「今日はひとりだからちょっとでいいの」「あらそうなのね」

「あれっ?今日はもう煮物はないの?」「全部出ちゃったのよ、ごめんなさいね」

「じゃあ、何にしようかな」「若どりロールはどう?」

おなじみさんとのなにげないもないおしゃべりから、料理にふさわしい部位、おいしい調理法・食べ方の伝授まで、会話がはずみます。

ドラマなどのロケ地としても使われ、放映後には「観たよ、出ていたね、と声をかけてもらえてね」と、お客さまの声がなによりうれしい博昭さんと優子さんです。

 

かつては賑やかだった団地は、住民の高齢化が進んで人口が減りました。建物の老朽化にともなって、現在建て替えが進行中で、完成は5年後。そしてお店の目の前には4月にオープンする「くにたち未来共創拠点 矢川プラス」が広がります。「あらゆる年齢層に使い勝手のいい施設。これでまた新しい人の流れができたらいいよね」と博昭さん。

第一小学校や第六小学校の“まちたんけん”の授業の見学にも応じていて、「肉の解体をしてあげるとね、みんな真剣な目で見ていますよ。肉は最初から切り身やひき肉だったわけでなく、命ある生き物だったことがわかるでしょうね」。これぞまさしく生きた食育。

 

こんなふうに子どもからご高齢の方まで、みなさんとのかかわりを大切にしながら地域に根付いての半世紀。装いを新たにする矢川の街で、この先もずっと身近にあってほしいお肉屋さんです。

基本情報

店舗所在地
国立市富士見台4-23-7
営業時間
10時~18時
休業日
日曜
TEL
042-575-4129