西欧菓子 伊藤屋

西欧菓子伊藤屋は、1987年に谷保第一公園近くにオープンしました。1999年にJR国立駅にほど近い大学通りに店舗を移転。以来2017年までの30年間、洋菓子激戦地くにたちで、名店のひとつとしてお客さまの心をとらえてきました。

その基本にあるのは、伊藤公朗シェフがヨーロッパでの修業中に心うたれたという、お菓子を楽しむ人々の姿とまなざし。お菓子がもたらす喜びと幸せを多くの人に知ってほしい、味わってほしいというシェフの願いです。

30年もの間、愛され続けたお店を閉めるにあたっては、多くの惜しむ声が聞かれました。

「当時、数年のうちにエリアの再開発が行われるという話が出ましてね。それを機に店舗は閉めました。菓子作りは好きで好きで、やめるつもりは毛頭なかったですよ。気力と体力があるうちに新たな道に進もうと、このアトリエという形での営業に舵を切りました」。

窓口での販売に加え、全国のファンにも通販で、その愛顧に応えています。

 

そのアトリエ。住宅街にあってちょっと見つけにくいのですが、営業日には、大学通りの国立駅と谷保駅のほぼ中間あたりに案内板が置かれます。これを目印に西へ進んで左折して路地に入ると、おなじみのロゴが見えます。

 

アトリエでの営業は水金土の週3日。ショーケースもなくて驚くかもしれませんが、この愛らしい窓口で販売をしています。接客は久子さんが担当しています。「本日のケーキ」(生菓子)は、イラストが貼りだされています。奥で仕事をしているシェフの姿が見えることもありますよ。

高校卒業後、「祖父が刀鍛冶だったこともあって、手に職をつけるのが一番かと思って」洋菓子店に就職したのが、シェフのお菓子作りの第一歩。「子どもの頃、クリスマスに父がホールケーキを持ち帰ったときのあのワクワクする特別感、喜びがあったから、料理ではなくお菓子を選んだかな」。

やがて「本物が見たくなって」23歳のときにヨーロッパへと飛び立ちます。

「フランス語を勉強していたんだけどね。最初に行ったのがスイスのベルンで、ドイツ語圏…(笑)」。働きながら、語学習得にも励みます。

1973年スイス・ベルン「グラッツ」、1974年オーストリア・ウイーン「デメル」、1976年フランス・パリ「ブルダロ」、1978年パリ「ベルトロ」で、広く深く技術、知識、食文化を身につけていきます。

そして1980年、パリで出会った久子さんとともに帰国。以来、二人三脚で歩んでいます。

 

イースター、スズランの日、魚の日、クリスマス、公現祭などなど、各日にちなんだお菓子を囲んで喜びを分かち合うヨーロッパの人々。「農(収穫の喜び)とキリスト教に基づくヨーロッパのお菓子」の伝統をシェフは大切にしています。その上で、「たとえ名前は同じでも、僕だけが作れる個性のあるお菓子でありたい」と独自性も織り込みます。そのために素材も十分に吟味して使うと、妥協のない姿勢を語ってくれました。

 

お客さまに選ぶ楽しみも味わってほしいからと、商品のバラエティは豊富。定番商品のほか、折々の季節ものも登場します。

 

ケーキ(生菓子)は店頭販売のみで、1日1種限定。季節や行事によって種類が変わります。できたての新鮮な生菓子は、格別なものがあります。

 

パティシエとショコラティエは分業のお店が多い中、ウイーンのデメルでカカオ豆を加工するところから始まるチョコレート作りを経験したシェフは、口どけや微妙な味の違いを見極めて、チョコレートでも完成度の高い味わいを生み出します。この見事なまでのツヤは、きれいに磨き上げた型を使うからこそ出せるのだそうです。「チョコレートの仕事は型を磨き上げることから始まる」という信念のなせる技。道具を大切にすることも重要なことなのですね。

 

上質なクルミと卵をたっぷり使った「ノア」は、伊藤屋開業以来の代表的かつ人気商品。くにたちStyleにも認定されていて、旧国立駅舎の売店でも購入できます。

「店舗がなくなって悲しんでいたお客さまたちが、ここでノアを見つけて『伊藤屋さん営業されているのね、よかった』とおっしゃるんです。購入してうれしそうに改札口に向かわれる方、あるいは帰宅される方がいらっしゃることからも市民に愛されているお店、お菓子であることがよくわかります」(旧駅舎販売スタッフ)。

シェフの仕事場はアトリエ以外にも。月に一度、NHK学園で講師を務めています。オリジナルレシピ、シンプルな材料と道具で作る季節のお菓子の講座です。デモンストレーションと実習があります。「実習で自作したものと食べ比べることで違いに気づき、少しでも”本物”に近づいてほしいから」と、同じレシピでシェフが作ったものをお持ち帰りするという仕掛けは、なんともうらやましい講座です。

「もう5年になるかな。講座で覚えたお菓子がそのご家庭の味になったら、家族みんなの宝ものになるでしょ。そうやってお菓子が運んでくれる幸せの輪が広がっていくのもうれしいことですから、やりがいがありますよ」。

 

さてさて、取材日のケーキはシュークリーム系「ピュイダムール(愛の泉)」。ちょっと濃いめの紅茶とともにいただきました。生地の食感、クリームのくちどけのよさと味わいに、シェフに言われるまでもなく、幸せな笑顔になりました。

基本情報

店舗所在地
国立市中2-19-43
営業時間
10時~16時
休業日
日・月・火・木
TEL
042-577-0121 
FAX 042-576-0574
ウェブサイト
www.itoya-kunitahchi.com