富士見台トンネル

表も裏もガラス戸なので、店名の通り細長い空間はまっすぐに通りぬけられます。のれんには不思議な記号のようなロゴ。日によって違うお店のようだし・・・ほんとは何屋さん?と思いながら通り過ぎる方も多いかもしれません。

そう。ここでは「お店が日替わり」というシェア店舗が展開されているのです。

 

店舗は、UR富士見台第一団地商店街「むっさ21」にあります。JR南武線谷保駅北口からまっすぐ歩いて5分ほど。目の前が「富士見台第一団地」のバス停なのでJR中央線国立駅南口からも便利、歩いても約20分。

店内は45㎡ほど。長い長いテーブルには12~3人が優に座れそうです。ときにはベンチを出して、外での飲食も可能です。

飲食店営業許可を取得しているキッチン設備があり、什器備品も備わっています。

「現在約30店が会員として登録していて、出店しています。週1回とか月1回とか利用頻度は店によってまちまち。使い方も飲食、物販、教室などなどいろいろ。一店一店が個性的で、営業時間もそれぞれ。自由に使えるスペースです」と語るのは発案者で、市内に建築設計事務所を構える能作淳平さん。

 

開業は2019年11月。

「国立に住んで10年ほどになりますが、うちでは子育てのために妻が近所でできるパートタイムに転職しました。しばらく経って、妻のせっかく積み上げてきたキャリアやスキルを放っておくのはもったいないなと、なんだかモヤモヤし始めたんですよね」と能作さん。

そして、「もしかしたらこれはわが家だけではなく、地域には実はそういう力や思いがたくさん眠っているのではないか」と思いいたりました。

そんな人材資源ややる気を掘り起こす仕掛け、仕組みづくりへの模索の結果が、富士見台トンネルでした。このスペースの役割は、誰かの「能力」「やってみたいの気持ち」を引き出し、その後押しをして「商い」に育てることだと言います。

いきなりオフィスや店を構えたり、フルタイムで毎日働くのではリスクが大きいと、ためらうのは当然のこと。でも、シェア店舗での月1回なら、週1回なら負担が小さい分、ハードルが低くなるのではと考えました。

 

「ここでは使った日数に応じて場所代をいただいています。売上げの何パーセントを上納というのはありません」。「お金に振り回されないでチャレンジすることを大切にしたいから」がその理由です。

「ここでの経験が助走になって、その時がきたら店舗を構えて本格的に飛び立てるかもしれない。実際にそうされている方も出てきています。ライフステージ・ライフスタイルは変化していくものだし、変化に応じていくのも大事なことだと思うのです。小さな冒険、チャレンジができる空間、実験ができる空間でありたいですね」

 

みんなが相席という、たったひとつのテーブルに、初めてのお客さまは少しとまどうかもしれません。けれども、自ずと棲み分けができているようです。ここで仕事をしたい人(テーブル上面にコンセントがいくつかあります)、お仲間とおしゃべりやミーティングをする人、一人で本を読みながらくつろぐ人、店主とのおしゃべりを楽しむ人などなど・・・。大きなテーブルだからこそ一人でも居心地がいいという、一見矛盾する感覚さえ生まれる空間だからでしょうか、年齢層も使われ方もさまざまです。

 

能作さんの口からは何度も「つながる」「仕切りのない」「自由な」「フラットな」「ゆるさが許される」という言葉が出てきます。さらに「シェアには2種類の意味があって。ひとつは分け合う。もうひとつは持ち寄るです。ここでは力も手間もアイディアも時間も、持ち寄って発展していくものでありたいと僕は考えています。それは店主だけではなく、お客さまも巻き込んでね」

のれんの不思議なロゴは、富士見台の「富」と、トンネルの「T」。Tはつるはしの形にデザインされています。

地域のもつ人的資源、お仕事したい人の可能性を掘り起こし、地域やお客さまとの関係も掘ってつなげていこうという意気込みが込められています。

「ORDER HERE  ↓」と書かれているのは団地の入り口で使われている照明器具と同じもの。能作さんの後ろに見える桐のタンスは、おそらくは団地ができた頃に婚礼家具のひとつとして持ってこられたもの。お茶箱も置かれています。

「粗大ごみに出されていたものなんですが、くださいとお願いしてもらってきました。団地の持つ空気感や歴史、地域の雰囲気までも、デザインの一部として溶け込ませたかったので」。

そんな事柄たちを要として実現したシンプルでのびやかな空間、デザインに秘められた願いが、さまざまな可能性を引き出しているのでしょう。お客さまも店主の可能性を掘り起こしているかもしれない。お客さまもやる気を掘り起こされて、あちら側に立つ日が来るのかもしれない。そんな夢が広がっていきます。

「お客さんも僕らと一緒に掘っていきましょうよ。その先に何があるのか一緒にワクワクしましょうよ」の呼びかけが聞こえてきそうです。

基本情報

店舗所在地
国立市富士見台1-7-1-117 むっさ21
営業時間
出店者によります。
出店者スケジュール、営業時間など詳細はHP、Instagramで、出店カレンダーをご確認ください。
休業日
不定休
店舗席数
12席 バリアフリー
ウェブサイト
https://fujimidaitunnel.com Instagram @fujimidaitunnel