喫茶わかば

 

国立高等学校からほど近くの場所に建つ、くにたち福祉会館。
中に入ったことがあるという方は、もしかしたらそれほど多くないかもしれません。
国立市社会福祉協議会(以下、国立社協)が市の指定を受けて管理する施設で、すぐ脇には中央児童館が併設されています。

1階にある「喫茶わかば」は、しょうがい(障害)の有り無しに関わらず、働きづらさを抱えた方が実習しているカフェスペース。
昨年秋のリニューアル以来、積極的にインスタグラムを活用しておいしそうなお菓子や料理の写真をアップしています。

出迎えてくれたのは、国立社協の職員でもある店長・黒田千遥(ちはる)さん。
黒田さんは店舗を持たない「焼菓子屋QUATRE QUARTS(カトルカール)」として活動するパティシエの顔も持ち、市内シェアキッチンで製造した焼き菓子を卸すほか、不定期でイベントにも出店されています。

喫茶わかばの店内ではカトルカールのほかにも、同じく市内シェアキッチンを利用している車いすパティシエールの「ヤキガシヤイタガキ」、自家製酵母を使った「シュトレンのお店 fein」などの手に取りやすいお菓子を販売しています。
(購入したお菓子はイートインも可能)

店内のキッチンで毎日焼き上げるミニクロワッサンは、ちょっとお腹が空いたときにぴったり。
香ばしい香りに誘われる人も多いそう。

オーダーが入ってからハンドドリップで提供するコーヒーの豆は、矢川駅近くの「玲音香琲(レノンコーヒー)」から仕入れています。マイルドで飲みやすく、飽きの来ない味わいです。

黒田さんと実習生が一緒に作るお菓子は、季節の素材を取り入れたタルトやマフィンなどの日替わり。
この日は、あんずとカスタードクリームが挟まれたブッセ。
軽やかな生地にやさしいクリームとジューシーなあんずが、とても良いバランスでした。

三角形が印象的なお皿と爽やかな水色のマグカップは、陶芸家の梶山友里さんによるもの。
「カトルカールとして同じイベントに出店したことがきっかけで、お皿を卸してもらうことになったんです」と黒田さん。
梶山さんの陶芸ワークショップで実習生の皆さんが作った小皿も、あたたかみを感じます。

フードは店内で毎日仕込む無添加の「具だくさんスープ」ほか、日替わりで食べられるメニューも用意されています。

水曜日の特製ナポリタンはわかば店内で手作りしたもの。金曜日は不定期でマカロニグラタンも作っています。(メニューは変更になる可能性もあり)

「手作りのものをお出ししたかったんです。すべてというわけにはいきませんが、スープなどに使う野菜も市内産を積極的に取り入れています」と話してくれました。

 

メニューボードの右下にぶら下がっていたのは、切符サイズくらいの小さな「わかばコーヒーチケット」。
誰でも使ったり贈ったりできる回数券のようなもので、300円の飲み物やスープの飲食に使うことができます。

ヒントを得たのは、見知らぬ誰かのためにコーヒー代を前払いしておく、イタリア発祥の‘サスペンデッドコーヒー’(=保留コーヒー)。
一時はメディアなどでも取り上げられたものの、日本ではまだまだ浸透していないのが現状。黒田さんは、こうした取り組みがより多くのお店に広がることを願っているといいます。

「わかばコーヒーの特徴は、特別なメッセージや記名がいらないところです。‘支援する→支援される’ではなく、誰でも利用できる仕組みにしたくて。生活にお困りの方だけでなく、お財布を忘れてしまった、ちょっと疲れてコーヒーが飲みたい…そんな方にも利用していただきやすく、居場所としてのきっかけになっていると思います」

チケットは1枚から購入できますが、10枚以上買うと1枚あたり250円とお得に。
「10枚買って1枚を誰かにあげても、まだお得なんです」と笑顔の黒田さん。
お店にとっても損のない、無理なく続けられる仕組みです。

小学生の頃からパティシエになると決めていた黒田さんですが、製菓の専門学校を卒業後いくつかの職場を転々とするうち、働き方に疑問を感じるように。
一度は夢を諦めたものの、富士見台にある会員制シェアキッチン「おへそキッチン」の存在を知り、2018年にカトルカールを開業しました。

社協との出会いは、以前からリニューアルが検討されていたわかばで、カトルカールのお菓子を販売しないかと声をかけられたこと。
2021年9月からはわかばの店長として採用され、限られた人しか訪れない現状を変えたいと、積極的にSNSで発信しています。

「母がヘルパーでしたし、自分自身も不登校でフリースクールに通っていた時期があったので、しょうがいを持った人はいつも身近にいました。それが当たり前じゃないんだと気づいたのは、大人になってからですね。お菓子を作りつつ福祉にも関われる、自分に合った職だと思っています」

店長として日々の運営を回しながらも「上下は関係ない」ときっぱり言い切る黒田さん。
「中で働く人にもいろんな方がいますが、彼らから学ぶことがたくさんあります。さまざまな人が働いていることで、誰もが来やすい場所になっていると思いますし、来ていただけたら」と話す姿には、人と人との垣根を取り払いたいという想いがにじみ出ていました。

生きづらさを抱えている人も、日常に疲れてしまった人も、ただ普通にお腹が空いたなぁという人も。
‘わかちあえる いばしょ’で味わう手作りのおいしさは、心を解きほぐしてくれそうです。

基本情報

店舗所在地
国立市富士見台2丁目38-5(くにたち福祉会館1階)
営業時間
11時~16時
休業日
火曜・土曜・日曜、ほか祝日
ウェブサイト
https://www.instagram.com/kissa_wakaba/