谷保駅

JR南武線谷保駅は、国立市内にあるJR東日本3駅のひとつで、開業は1929年12月11日。駅開設当時、このあたりは谷保村(現・国立市)の中心をなす地域でした。

駅名は、村の名前から。

谷保の谷(やつ)には低湿地の意味があり(『広辞苑』)、鎌倉時代にはすでに谷保郷という地名が見られ、集落があったとされています。江戸時代には甲州街道を中心に民家が立ち並び、人々は豊かな水に恵まれて稲作をはじめとする農業、養蚕を営み、村が形成されていきました。

谷保はもともとは「やぼ」と読まれましたが、駅名は「野暮」と通ずるのを嫌って「やほ」と名付けられたとの説があり、地名もその名で定着しています。けれども、東日本最古にして関東三大天神のひとつである谷保天満宮(903年創建、1181年現在地に遷座)は「やぼてんまんぐう」と読みます。

南武線の前身は、多摩川で採掘される砂利を川崎の工業地帯に運搬するために敷設された私鉄・南武鉄道。1944年に国有化され、1987年の民営化に伴い、JR東日本南武線となりました。

1979年に橋上駅舎化。改札口は一つで、北口と南口は通路で結ばれています。2015年3月にはかねてから懸案だったエレベーターが使えるようになって、利便性が向上しました。

国立市で育った作家・多和田葉子さんの芥川賞受賞作『犬婿入り』。物語の時代設定は公団住宅が完成し人口が一躍増加した1960年代半ばから後半あたりでしょうか。富士見台団地とおぼしき公団住宅の描写から始まり、団地から多摩川べりにある学習塾に通う小学生たちが登場します。新興住宅地から自然豊かな南部地域に向かう子どもたちの道程にしたがって、南武線を境に地形や町のありようが変化していくさま、それぞれの地域が放つ空気感、歴史や文化の違いが描かれています。

谷保駅を中心に南北縦長に歩いてみると、その雰囲気を感じとることができそうですよ。

谷保駅北口ロータリーから中央線国立駅南口までは、全長2kmほどの大学通りで結ばれています。

600mほど先のさくら通りまでの地域は、1965年に完成した公団住宅の建設を中心に開発されたエリア。60年近くが経過して、敷地内の樹木も大きくなりました。ゆったりとスペースどりされた緑地や公園、広場などもあって、静かな時間が流れます。

団地周りの家並みや商店街にも、昭和の気配がただよい、気さくな商店や飲食店に立ち寄るのも楽しいもの。

さくら通りを渡った先は趣が変わります。都立障害者スポーツセンター、高層マンション、都立国立高校や桐朋学園が並び、さらに進むと、大正末期から昭和にかけてJR中央線国立駅を中心に造成された「大学町」エリアに入っていきます。

では、南武線の南側はどうでしょう。

このあたりは国立市が谷保村と呼ばれていたころの中心地だけに、歴史を伝える場所が数々あります。今回は、意外に知られていないところをご紹介。

改札口から駅南口に出る階段をおりると、車がやっと1台通れるくらいの細い道。

線路と甲州街道の間は、細い道路に家が立ち並ぶ閑静な住宅地。古くから栄えていた歴史あるエリアであることは、時折、旧家のお墓が住宅と並んであることや、常夜燈や庚申塔などがさりげなく、けれども住民に大切にされながら存在しているあたりからも窺えます。

甲州街道を渡って谷保天満宮の並びには「関家かなどこ跡」の説明板があります。江戸時代から明治初期までは、このあたりで鋳物が作られていたのですね。鍋や釜、農具などの日用品から、神社仏閣に納める梵鐘や仏像、擬宝珠などの工芸品まで、関氏、矢澤氏、森窪氏の三家が鋳造にあたっていたそうです。

南養寺の梵鐘は、関家製作によるもの。関家の屋敷・鋳物跡遺跡は、1961年、1994年、1997年に発掘調査が行われました。出土した遺物は、くにたち郷土文化館に所蔵されています。

国立市の歴史を語る上で欠かせない谷保天満宮や本田家は無論のこと、点在する数々の史跡も、ひっそりと歴史や暮らしぶりを伝えてくれています。

谷保駅はそんな歴史探検の出発点でもあるのです。

 

谷保駅モノクロ写真3点提供:くにたち郷土文化館

参考文献:

『犬婿入り』(多和田葉子 講談社文庫)

『土地の記憶と物語の力:郊外の文学社会学のために(2)』(鈴木智之 法政大学学術機関リポジトリ 法政大学社会学部学会 2015-07)

『江戸近郊の鋳物師―谷保村関鋳物師の業績―』(2000年 くにたち郷土文化館)

『くにたち生活便利帳』(国立市 (株)サイネックス)

『国立を知る 参加と対話を求めて』(2020年 国立市・国立新書編集委員会)

『あおぞら―国立の自然と文化―』(2002年 国立の自然と文化を守る会編)

『学園都市開発と幻の鉄道~激動の時代に生まれた国立大学町~』(2010年 くにたち郷土文化館)

『くにたち商店街形成史―国立大学町を中心として―』(2000年 国立の自然と文化を守る会編)

『まち、ひと、くらし-写真でみるくにたち-』(2006・2018年 くにたち郷土文化館)

『くにたち あの日、あの頃-写真に見る少し昔のくにたち-』(2017年公益財団法人くにたち文化・スポーツ振興財団)

『みんなでくにたちを歩こう 健康ウォーキングマップNo.3、8』(国立市健康増進課保健センター)

基本情報

店舗所在地
国立市富士見台1丁目

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